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小さな道を、だんだん大きく。開拓し続けるショコラティエ・土屋公二さん

日本を代表するショコラティエの一人であり、手作りチョコレート専門店「ミュゼ・ドゥ・ショコラ テオブロマ」やBean to bar 専門店「CACAO STORE」などを手がける土屋公二さん。オンライン講座“チョコレートのある人生”では語り尽くせなかったチョコレートへの熱い想いを、改めて土屋さんに伺いました。

ショコラティエの道へと突き動かした原点

パティシエといえば、子どもの頃に母親が作ってくれたお菓子がきっかけでお菓子を作りたいと思うようになった……という人が多いんですが、僕の場合はそんなことはなくて。最初にお菓子を作ったきっかけは姉だったんです。姉が高校生の時に家庭科の授業でお菓子を作る宿題があったんだけど、姉はお菓子作りが好きじゃなくて、代わりに僕がシュークリームを見よう見まねで作ってみたら上手にできたんですよ。それがおいしいって褒められて喜んでもらえて、すごくうれしかったのを覚えてます。

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共働きの家庭ではなかったので、料理は母が毎日作りますから、僕はたまに週末に簡単なごはんを作る程度だったんですが、台所に立つのは全然苦ではなかったし、お菓子を作るのも楽しかった。勉強は嫌いだったけどモノを作るのは好きな子どもだったし、今もモノづくりは好きですね。

でも、特に料理やお菓子の専門学校に通うということはなく、高校卒業後の最初のキャリアはスーパーマーケットだったんです。就職してすぐ椎間板ヘルニアで腰を痛めてしまって辞めることになっちゃったんですけどね。その後、ひょんなことからアルバイトとして洋服屋さんで洋服を売っていたんですが、今度は交通事故に巻き込まれてしまって。4ヶ月ぐらい働けなかったんです。

洋服の販売には戻れず、じゃあ何をしようかと考えたときに、ふと、「お菓子作りなら楽しそうだな」と思って、地元の清水町のフランス菓子店に勤め始めました。これが、大きな間違いでした(笑)。

というのも、いくらお菓子が好きでも、人のために作るっていうことは、毎日同じものを1,000個作らなきゃいけない。加えて当時のパティシエは、いわゆる3K(きつい、汚い、危険)な労働環境だったんです。今は違いますが、朝は早いし、夜は遅い。スーパーでヘルニアになったから腰が痛くならない仕事をしようと思ったのに、いざパティシエになったら初日から腰が痛かった(笑)。だから、「早く上の立場になろう」と。

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すでに何年も働いている職場の先輩たちの技術には、すぐには追いつけない。でも、技術では敵わなくても、チョコレートの知識やレシピのアイデアなどをひたすら研究して考えることなら、先輩たちに勝てるんじゃないか、と。昔から勉強は嫌いだったけど、好きなことならいくらでも勉強できたので、パティシエとしての技術を身につけていくと同時に、知識をどんどん増やしていきました。当時の学びが今でも自分の基礎になっていますね。

フランスに留学した理由も、本物を見てみたかったから。でもフランスで最初に行ったのはお菓子屋さんではなく語学の学校。言葉がわからない人に仕事はくれないですから。フランス語を学んだらすぐ帰ろうと思ってたんだけど、友達がいろいろ仕事を紹介してくれて、結局6年近くいましたね。

本場・フランスのお菓子やチョコレートを学んで日本に帰国してから、8年ほどチョコレートの事業に関わって、富ヶ谷で自分のお店を出したのが1999年。チョコレート業界の「草分け」と言われることもあるけど、何もなかったところに道を作ったというより、小さなチョコレート業界の道を、だんだん舗装して大きくしていったような感覚に近いです。

フランスでは1980年ごろ、日本では1990年ごろから高級チョコレートと呼ばれるような個人のショコラティエのお店が生まれてきましたが、パッケージや広告で高級感をうまく見せたのはやはりゴディバが先駆けだったと思います。2000年ごろから日本は高級チョコレートブームだったので、いいタイミングで自分の店を始められました。3年目の売り上げ予想を1年目で軽くクリアするくらい、開店直後から繁盛していましたね。

カカオ産地の景色を目に焼き付けて

1999年の3月に開店して、同じ年の5月にはカカオの産地に行き始めました。最初は本店の物件を契約するときに保証人になってくれたチョコレート業界の知り合いが、たまたまベネズエラとつながりがあって、ちょっと行って見てきてくれ、と。その人は先見の明があって、ビーントゥバーがこれから流行ると予想していたんです。

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(テオブロマの店頭に並ぶタブレット)

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産地に行くのって、とてつもなく大変! まず飛行機だけで24時間かかったり、場合によっては都市から農園までさらに3〜4日かかったり。しかも現地のごはんでお腹を壊したり、人々にだまされたり。運転手が僕らを守るためにピストルを携帯していた、なんてこともありました(笑)。個人で行くのはおすすめできない国もあります。

それでも知人や仕事を通じて、つてをたどって、なんとしてもまたカカオの産地に行きたい! と思うのは、やっぱり現地に行ってみないとわからないことがたくさんあるから。産地ごとのカカオの違いって、うまく言葉にできないような、微妙な差なんですよ。でもその微妙な差は、たくさんの種類のカカオに現地で触れて、比較しないとわからない。大変だけど、行きたくなるんですよね。冬以外の季節はずっとカカオ産地と日本を行ったり来たりの生活でした。

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(ベネズエラのカカオ農園にて)

これからもいろんな産地に行って、それぞれの産地のカカオの特徴を知りたいという思いはありますが、コロナウイルスで海外への渡航が制限されている今の状況は、すごろくで言う「1回休み」みたいな感じで、自分の仕事にとってはとてもいいことだと思っています。アルバムや記録をもう一回見直したり、整理したりする時間ができましたから。

落ち着いてまた海外に行けるようになったら、まだ行けていないホンジュラスとコスタリカのカカオ農園に行ってみたい。あと、テオブロマはずっとマダガスカルに力を入れていて、コンテナで輸入しているんですが、最初に行ってからもう6、7年の付き合いになります。今後もテオブロマの1つの核として援助していきたいし、マダガスカルのカカオ豆をもっと活かしたい。そのためにも、いろいろな産地のカカオと比較して、研究し続けたいですね。

渋谷の街にカカオ農園!?

テオブロマ本店は都内の人口からすると、0.5%の人しか狙っていません。明治さんのような大企業は、一般的には人口の6割ぐらいをターゲットにしています。「meiji THE Chocolate」はちゃんと産地に行って豆を買って作っているからビーントゥバーって言える。豆じゃなくてカカオマスを買ってチョコレートを作っているところも多いんですが、明治さんはビーントゥバーにこだわっていて、チョコレートの作り方もすごく研究している。実は明治さんは、うちが買っているより良い豆を持っているんですよ。良い豆というのは、個性があって、香りの高い、特徴を感じられる豆。譲ってほしいくらい良い豆を使っていますよ(笑)。

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パッケージもクラフトの紙で、小さく食べやすい大きさに変えて、大企業として画期的なことをされましたよね。100円のチョコレートだったら子どもがおやつとして買うものだけど、やっぱり“嗜好品”としてのチョコレートは、お酒に添えられたりパーティーのデザートに出てきたりしてもおかしくない、ストーリーが味やパッケージなどチョコ全体に反映されているものじゃないかなと思います。少子化が進んでいるので、チョコレートも時代に合わせて変化していかなければならない。「meiji THE Chocolate」は400円でも500円でもいいくらいのクオリティだと思うし(笑)、「メイジ・カカオ・サポート」を確立されて、産地のケアをしたり教育を支援したりと、CSR(社会的責任)に結びついているのも素晴らしい。

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現在、テオブロマの店舗は全部で4店舗ありますが、ビーントゥバーのチョコレートを作って売っているのは奥渋谷の本店とカカオストアだけ。2011年の震災以降は特に、事業の拡大はリスクが大きいっていうことと、自分の理念ではないなということに気がついて。店舗は僕の目の届く範囲で続けていけたら充分だなと思っています。

最近は60歳を超えて、自分の身体を考えると精力的に動けるのはあと10年程度かな、という気がしてきました。今後はチョコレートのことを伝えていくこともしていきたい。例えば、渋谷区にカカオ農園があったらおもしろくないですか? 子どもたちがカカオの木に触れられる環境があったらいいなと考えています。

もう一つこの先やりたいのは、各国の記録を本にまとめること。今まで訪問してきたカカオ産地の写真はアルバムを作って残してきました。カカオを作る人たちがいて、カカオにもいろいろなバリエーションがあって、現地にはこういう風景が広がっていて。チョコレートの作り方が載っていてもいい。そんな本を出したいですね。

【Next 明治のトップランナーが語る、世界のカカオ産地】
[プロフィール]
土屋公二(つちや・こうじ)さん(THÉOBROMA オーナーシェフ)
静岡県でパティシエのスタートを切り、修行のため渡仏。フランスのパティスリー、ショコラトリー、三つ星レストランなどで6年間修行し帰国。フランスのショコラトリーの日本店のシェフを務め、1999年東京・渋谷にチョコレート専門店「ミュゼ・ドゥ・ショコラ テオブロマ」をオープン。20年前から世界のカカオ農園を訪問し、理想のカカオを追い求めている。2015年東京・渋谷にbean to bar専門店「カカオストア」をオープン。国内外での受賞歴多数。フランスのチョコレート評価ガイド(C.C.C.)では2014年から5年連続金賞を受賞している。HP:ミュゼ・ドゥ・ショコラ テオブロマ
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チョコレートの隠れた文化的価値を発見するメディア【DISCOVER THE CHOCOLATE】。 meiji THE Chocolateの公式noteです。 チョコレートを、ワインやコーヒーのような大人の嗜好品に。チョコレートの繊細かつ複雑で多彩な魅力をご紹介していきます。