本当に“現場のためになる”カカオ生産の形とは?
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本当に“現場のためになる”カカオ生産の形とは?

カカオを求めて世界の産地を周り、長期間滞在しては農家に丁寧にヒアリングを重ねてカカオ豆の生産を辛抱強く指導していく。文字通り、体を張って現地の農家をサポートし、良質なカカオ豆の生産を実現してきたのが、研究本部商品開発研究所カカオ開発研究部の宇都宮洋之です。チョコレートの祭典「アンペリアル・ショコラ」で日本人としてはただ一人招待され、「meiji THE Chocolate」をフランスのチョコレート愛好家による権威あるクラブ「C.C.C」での受賞にも導いた宇都宮が語るカカオ道とは? カカオへの情熱がほとばしる話が始まります。

現地を見に行くだけではなく“作りに”行く

私は大学で食品科学を専攻しました。修士論文のテーマは、食用生物へ与える栄養素がどう蓄積され、加熱等により味・香りがどう変化するか。同専攻の学生は食品、化成品などの会社に就職することが多く、私も食品、化成品会社への就活をして、明治に入社が決まりました。他にもいくつか受けたのですが、明治にした理由は最初に内定をくれたからです(笑)。

入社後、配属になったのは大阪工場で、カカオやチョコレートなどを担当する製造部一課です。カカオ豆から製品になる前のどろどろ状態のチョコレートを作る仕事ですね。その後、工場への商品導入、品質向上、効率生産などを行う技術課に移りました。

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(工場勤務の頃、外部のチョコレート研修に参加した時)

このとき、約1,000万円もする機械を導入してもらいました。「カカオ豆から製品に至る過程で香りの変化を測る機械があったほうがいい。」そう提案したらOKの返事が出ました。いま考えたら太っ腹ですよね(笑)。高い機械ですが、工場の製造現場で起きていることを研究所にフィードバックしたり、他工場との違いを明らかにしたりする業務には非常に役に立ちました。

工場に5年半勤務した後、次は研究所に移りました。当初はチョコレート素材の探索と評価、チョコレート商品開発を行っていました。2005年に上司から「カカオ作りにこだわる新しいグループを立ち上げるから、組織名とやることを考えてこい」と言われ、将来への差別化のために一生懸命プランを考えたんです。それで「カカオ基礎研究グループ」が立ち上がり、頻繁にカカオ豆の産地を訪れるようになりました。

それまでの明治は、商社などからカカオ豆のサンプルを入手、評価をし、良質であれば短期の出張で産地に赴き、産地確認を行い購入していました。カカオ豆の生産工程と、出来上がったカカオ豆を確認しに行くまでだったんです。そこで、「チョコレートを作っているのだから、産地を見に行くだけではなく、豆から作りに行くべきだ、カカオの生産にも積極的に関わるべきだ」と上司に直訴したんです。そのときの提案書は、今でも持っていますよ。

いろいろな産地をリサーチした上で最初に向かったのは、明治にとって重要な産地であるベネズエラとエクアドル、そして新規産地のペルー。2006年3月に、明治が積極的に関わっていける産地であるかを知るために農家を回りました。

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(ベネズエラの農民一家と)

しかし、当時はメーカーが農家のカカオ豆生産に積極的に関わるという前例がほとんどなかったので、農家の人からは「あんたたち誰?」「何しに来たの?」と言われてしまう(笑)。来訪の目的をわかりやすく説明することから始めなければなりませんでした。農家一軒一軒に明治のチョコレート製品を持参しては、「最終的にはこの形になるので、皆さんにはこんなお仕事をしていただきたい」と話し、「そのためには協力を惜しまずサポートしますから」と伝えて、現状の問題点を聞き出していきました。

収穫時期には必ず明治の人間が現地にいるようにローテーションを組み、1カ月現地に行っては1カ月帰国するサイクルを4年ほど続けたでしょうか。最初の年は調査、2年目は実験、3年目は農家さんへの指導と導入。4年目はちゃんとできているかの確認です。

産地の人々の暮らしを伺い知る

ベネズエラの農家では最初に明治が行ってから15年以上も経ったいまも、技術指導をしたときと同じ方法でずっと生産が続いています。協力体制もできあがりました。毎年一定量を確保できるようになり、そこで生産されたカカオ豆は「meiji THE Chocolate」にも使われています。

最初に訪れたときは、道具も知識もなく、教育も行き届いていない状態でしたから、当然いいものを作る方法がわからない。そこから少しずつ、いまのように変わってきたんです。

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(ベネズエラにて。新品のTシャツで農作業をサポート)

農家の中には、楽して儲けたいと考える人もいるのです。ただその気持ちは向こうに行けば理解できる。暑くて暑くてとても農作業をする気にはなれない(笑)。日本みたいに「1日目はこの仕事」「2日目にはあの仕事」とお願いしても、うまくいくはずがない。

そこで、高品質なカカオの香味を実現しつつ、かつ農家さんの負担を減らすための方法を盛り込み、実験を重ねました。負担をなるべく少なくして、安定したカカオ生産ができるようにするためです。さらに高品質ならば高価格にもなり、収入が増えた方が絶対継続性がありますからね。

ペルーの産地も訪問しましたが、行ったのは明治でも私一人、それも一度だけ。というのは、カカオ豆の産地が治安の悪いエリアにあって、命の危険に関わるからです。関係先からはヘリでの移動を提案されましたが、120万円の見積もりを提示され、さすがに車移動となりました。

ペルーには日本人の子孫も多く、同じ南米でもスペイン系の人たちとは全然考え方が違うんですよ。細かい注文を出しても対応できる。現地に行き、かなり厳しいスペックを決めてきましたが、それがいまも守られています。生産過程はリモートでやりとりしながら連携していますが、最終的に収穫されたカカオ豆の品質にもブレがない。明治の要望にしっかり応えていこう、という姿勢で仕事に取り組んでいただけています。

ペルーの産地訪問はヒヤヒヤする経験でしたが、めったにない経験ができたと思っています。ペルーやベネズエラなどのリアルな農村地帯を見ることは、観光旅行や通常の出張ではなかなかできないですから。カカオ視点ではありますが、その国で人々がどのように生活しているのかを伺い知ることができた経験は貴重でした。

ホワイトカカオの生産に挑戦

メキシコでは、ホワイトカカオの生産も始めています。ホワイトカカオは、カカオ全体の約0.002%と言われている、幻のカカオです。工場勤務時代、使っていたカカオ豆品質評価シートの「カカオの色」の中には「乳白色」という項目がありましたが、一度も現物を見る機会はありませんでした。項目としてはあるのに、どんなものなのかわからなったんです。ところが、研究所に異動して初めてホワイトカカオを体験できた。口融けがなめらかで、クリームのような味感があるんですよ。

南米の産地を訪問するようになってから、カカオつながりでいろいろな方と交流させていただいていますが、あるとき、「メキシコには“クリオロ”と呼ばれるホワイトカカオを生産する農家がある」ということを知りました。「興味ある?」と聞かれて、ないわけがなく(笑)、2016年からメキシコでの生産に乗り出しました。

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(メキシコホワイトカカオのカカオポッド)

世界のトップシェフがクリオロをどう評価するのか知りたくて、「サロン・デュ・ショコラ」に出かけて、突撃でヒアリングをかけたこともあります。トップショコラティエのフレデリック・カッセルさんのブースに出向いて話をしたら、「自分たちがやっていることの価値をちゃんとわかってる? 素晴らしい価値があることをしっかりと認識して広めてほしい!」と応援され、カッセルさんが主催するチョコレートの祭典「アンペリアル・ショコラ」にもご招待いただきました。

「サロン・デュ・ショコラ」の中にはCCC(Club des Croqueurs de Chocolat=チョコレートをかじる人たちのクラブ)という、チョコレートに造形が深い人たちによるクラブがあるのですが、彼らの会合に呼ばれて、ホワイトカカオを持参してプレゼンをしたこともあります。その場にいたのはシェフや知識人、ジャーナリストなど幅広い方たち。みなさんから「ホワイトカカオを自分も食べてみたい!」と引っ張りだこでした。反応は抜群に良かったですね。

ホワイトカカオの生産を始め、収穫と商品化が近づいてくる段階で、日本の市場や明治の商品設計、将来像、収穫見込み、価格設定などを現地で一人で交渉しました。苦労の甲斐あって、木は順調に育ち、収穫量が増加してきています。まだ小さい赤ちゃんの農園ですが、着実に育てていきたいですね。

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(2021年1月から百貨店のバレンタイン催事などに登場した「meiji THE Chocolate メキシコホワイトカカオ」)

2006年からは、南米5カ国で「メイジ・カカオ・サポート」も始めました。農作業に本当に役立つものを手当してサポートするシステムです。大規模なフェアトレードとは違ってミクロな経済圏ではありますが、自分たちの考え方でできることをやり、現地に貢献していくという立ち上げ当初の原点は踏襲していると思います。

入社から27年。チョコレート一筋の会社生活もあと7年ほどになりましたが、クリオロをさらに探求したいという気持ちは強いです。

ある学者が、希少な品種がメキシコからフィリピン、インドネシア、インドを渡ってマダガスカルへと渡ったという論文を発表されていたので、この「クリオロロード」を追いかけています。マダガスカルには世界遺産級ではないかと思われる品種を発見できました。これまでカカオ産地でやってきた発酵の研究結果も活かしつつ、世界が欲しがるこの品種をクリオロロードをたどって増やしていきたい。そして、現地の経済も潤うという仕組みを作っていきたいですね。

[プロフィール]
宇都宮洋之(うつのみや・ひろゆき)
商品開発研究所 カカオ開発研究部 部長/カカオクリエイター。
カカオへの愛情が強く、カカオ愛は明治で一番と言っても過言ではない。カカオで知らないことは宇都宮に聞けばなんでも答えてくれる。常に前向きでこうだ! と思ったら突き進み、周りもやる気にさせる人。カカオ産地に足を運んだ回数も最も多く、現地からの信頼も厚い。 “推しザ・チョコ”は「ベネズエラ」。
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